松茸すき焼
秋の味覚・松茸
秋を代表する味覚、その香りに多くの方が魅了されているのが松茸です。
国産では9~11月ごろが旬で、人工栽培が難しい希少な食材です。その機能は、カリウムが多く、特徴である香り成分「マツタケオール」「桂皮酸メチル」には食欲増進効果があると言われています。
長年研究されていながら椎茸、エノキダケなど他のきのこ類のように人工栽培方法が確立されていません。松茸が、生きたアカマツと共生することで繁殖する菌根菌であるため、その生育を人間がコントロールすることが難しいのです。現在では岩手県、長野県が主要な産地となっていますが、京都府、岡山県、広島県なども上質な産地として知られています。最近は、上質な海外産輸入松茸も多く流通しており、主な輸入国は中国、韓国、ブータン、カナダ、アメリカ、トルコなどとなっています。特に中国産のなかでも吉林省や雲南省の松茸は、9月には国産を凌ぐほどの品質です。10月になると国産品が凌駕します。
松茸を主役としたレシピは様々。シンプルに炭火焼、蒸し焼き、酒蒸しなど松茸そのものを楽しむのも、吸い物、天ぷら、松茸ご飯などに調理して、お出汁の旨味に香りをあわせた味わいも格別です。
鎌倉時代には、東寺への松茸進上が文献に残っており、僧侶らにとって楽しみな存在だったことがうかがえます。塩漬けにするなどして長期保存した松茸を、夏でも料理に利用した様子が江戸時代のレシピ本に残っています。時代が下って昭和初年から30年代までは松茸の採取量がピークであり、松茸の産地では、松茸狩りとともに山で七輪を囲んでの酒盛りで大いに賑わったようです。松林が身近にあった農山村地域や、産地である近畿や中国地方ではとくに「秋のごちそう」として他のきのこ類に抜きんでた存在として松茸に親しんできました。戦後の高度経済成長期を経た生活環境の変化によって、アカマツ林の生育環境が大きく変わり、またマツクイムシの被害のため、現在では全国的に松茸の生産量は減少しています。
人形町今半の「松茸すき焼」
人形町今半では例年9月と10月、飲食店で「松茸すき焼」をご提供しております。
きっかけは30年ほど前、現人形町今半社長・髙岡哲郎が近江牛生産者を訪ねた際に、牧場の裏山で松茸狩りをさせていただき、採りたての松茸と近江牛だけのすき焼を味わったことでした。このときはじめて松茸入りのすき焼を食した哲郎は、昼間の山歩きで疲れた体が松茸の香りと近江牛の美味しさとでたちまち癒された食体験に感動しました。後年、人形町本店店長の頃に、深山の恵みを生かした秋のすき焼をご提供しはじめました。専用の割下で松茸と秋の実りをお楽しみいただこうと、試行錯誤、改良を加えてきました。
すき焼鍋で松茸の香りをどのように出すか…関西風すき焼にならって松茸を牛脂で焼き付ける、牛肉で松茸をくるむ、などお客様のご意見をいただきながら様々な手順を試したところ、ネギと同様に松茸を調理するのがもっともお肉との相性が良い、という合点を得ました。以来25年ほど経った現在では、はしり、さかり、なごり、それぞれのタイミングに合わせて産地を選び、その時々の上質な松茸を仕入れております。コースでは、松茸すき焼ならではのお供に「土瓶蒸し」「松茸ご飯」もご用意し、古くから親しまれてきた松茸料理の美味しさもお届けしております。
古くは『万葉集』にその香りの良さが詠まれたとされる松茸。芳醇な松茸の香りと黒毛和牛との、豊穣な組み合わせをお楽しみください。