【オフィシャル】人形町今半

すき焼きの具材

2021年10月20日

すき焼きの具材の地域性

すき焼きは地方、家庭によって好まれる具材も違ってきます。
 焼いて仕上げる関西風のすき焼きには水気の多い白菜や、焼けた醤油の香りと相性がいい牛蒡などが
好まれます。
一方関東では、割り下の味わいを吸い込む竹輪麩を入れる家庭もあります。
香川県の一部地域では大根が好まれていますし、静岡県の一部ではじゃがいもを入れたすき焼きが好まれます。
また、お麩は定番の食材ですが、関西では生麩が、名古屋周辺では生麩に餅米と小麦粉を加えた角麩が、東北や沖縄では油で揚げた油麩が好まれており、お麩だけでも大きな地域差があります。
また、滋賀県では、鰻や牛肉などを砂糖と醤油で調味する、「じゅんじゅん」と言われる料理が存在します。こちらには「近江こんにゃく」という鮮やかな赤い蒟蒻が使われるのが定番ですし、関西の他の地域では黒い蒟蒻を細く切った糸コンニャクが、関東では白い蒟蒻を小さな穴から押し出してつくる「白滝」がそれぞれ定番になっています。
茸ですと椎茸、しめじを筆頭に口当たりと歯ごたえがいいエノキ、秋には豊潤な香りの松茸など、多様な茸が使われています。

すき焼きの定番具材

すき焼きの定番の食材として、焼豆腐や春菊があります。それらにはこのような背景がありました。

焼豆腐

もともと江戸のころには豆腐は大変人気な食材でした。その食べ方は多種多様で、煮たもの、炒めたもの、焼いたものなど、多種多様な料理法が存在しており、特に田楽のような甘辛い味付けの食べ方は、地方を問わず人気がありました。
甘辛い味わいのすき焼きに焼豆腐が取り入れられたのは自然の流れと言えるでしょう。

春菊(菊菜)

春菊(関西では菊菜)は全国で栽培されていますが産地・品種によって特徴が違います。
代表的な品種として、味わいにクセがなく柔らかい大葉種、香りの強さが特徴の中葉種、香りの強さと葉の柔らかさを併せ持つ中大葉種などが存在します。奈良県の中大葉種は「大和きくな」といわれ伝統野菜の一種とされています。九州・四国では大葉種が、関東では中葉種がほとんどです。特に甘みが特徴の九州産、香りとほろ苦さが味わい深い東京産などが有名です。
甘みが豊かな東京のすき焼きに、ほろ苦い関東産の春菊が取り入れられたのも、これもまた自然な流れと言えるでしょう

今まで挙げた食材以外にも、当店では大根もち、南京もち、もろこししんじょう、蓮根もちなどの練り物、近年ですとトリュフやトマト、アスパラ、長芋、新筍、松茸、蕗、冬瓜、おくらなどが使われています。すき焼きは各地方、各店舗、各家庭での違いが生まれており、食文化の一つとして華開いています。
・人形町今半の定番の具材 
多様な食材が多い中、人形町今半には、いくつか定番で使われている食材があります。それらが定番になるまでには以下のようなドラマがあったと言われています。

生卵

江戸時代末期には数多くの鍋料理が存在しました。中でも割り下で味をつけた鍋は江戸前の定番でした。カモやドジョウの鍋は、煮えたら仕上げに溶き卵でとじるという食べ方に人気がありましが、じかに生卵をつける方もいたそうです。
そんな生卵の食い味を愛した先々代・髙岡元一がすき焼で楽しんでいて、その贅沢さと食べ味の良さ、しかも肉を程よく冷まし食べやすくすると惚れ込んで店でも出すようになり、これが今半のすき焼の定番になりました。
当時は卵一個の値段が今とは桁違いでしたから、それをあえて生でソースのように使うというのは大変豪勢で通(つう)な食べ方だったのです。(注:一番初めにすき焼きに生卵をつけた方がどなただったかは定かではありません)

長ネギ

葱は二つの系統があり「地中深く埋めて育てる」根深葱(いわゆる長ネギ)を千住系、「青く育った葉を食べる」九条系と言いますが、その名の通りいわゆる長ネギの代表格が千住の葱なのです。
東京・千住にはネギ専門の市場「山柏青果市場」が現存しており、葱専門の農家の方が自分の畑で採れた葱の中でも高品質なものを選んで出荷し、葱を専門に扱う葱商と言われる専門業者が競る、真剣勝負の場です。
千住で珍重される葱は千住葱と言われ、江戸時代から受け継がれた品種の葱です。生で食べると香りと共に爽やかな辛さが感じられ、火を入れるとシャキシャキとした歯触りとフルーツのような豊潤な甘さが楽しめます。
その味わいは、昔ながらの江戸のあじわいで、すき焼き、牛鍋の欠かせない脇役としての地位を長らく独占してきたのです。

お麩(丁字麩)

人形町今半のすき焼には麩が入ります。
昭和初期、元一は京都の生麩をすき焼に入れたいと仕入れ先を探しに何度も京都に出向き、一人の伝統的な焼き麩を作る職人と出会いました。彼の手は麩を焼く時の熱と、麩を仕込むときに込めるちからによって、逞しく、そして硬く変形していたそうです。元一は握手をした時にその職人の手にほれ込み、一度も食していない彼の作る麩を使うことを即決します。その麩は丁字麩と呼ばれる麩で、現在でも人形町今半で使われ、人気を博しています。